富裕層が実践する財団を活用した節税とは|生前にできる相続税対策7選

相続税の負担を抑えるための対策は、資産を持つ人にとって重要な課題です。特に相続税の最高税率は55%にも達し、適切な準備をしなければ、築いた資産の多くを税金として納めることになりかねません。これまで、不動産や保険を活用した節税スキームが広く用いられてきましたが、近年、税制改正によってその抜け道が次々と封じられつつあります。特に、タワーマンションの相続税評価額の差を利用した節税スキームは、2024年以降規制が厳しくなっています。しかし、相続税を軽減する手段が完全になくなったわけではありません。なかでも、富裕層が活用する方法の一つに「公益財団法人」を設立するスキームがあります。相続財産を財団に移すことで非課税となるため、資産を守りつつ社会貢献もできる点が大きな魅力です。
本記事では、生前に実践できる相続税対策の中から、特に有効とされる7つの方法を解説します。相続税の負担を減らし、資産を効率よく次世代へ引き継ぐために、ぜひ参考にしてください。
目次
・そもそも富裕層とは?
・なぜ富裕層は相続税対策をしなければならないのか
・財団を活用した節税スキームとは
・公益財団法人の節税メリットとデメリット
・富裕層が検討したい生前にできる相続税対策7選
・財団法人節税を活用する際の注意点
・まとめ
そもそも富裕層とは?
富裕層とは、一般的に「純金融資産(預貯金・株式・債券・投資信託・年金保険など、世帯が保有する金融資産の合計金額から負債を差し引いた額)が1億円以上の層」を指します。なお、株式会社野村総合研究所の調査では、以下のように分類されています。
● 超富裕層(5億円以上):11.8万世帯
● 富裕層(1億円以上5億円未満):153.5万世帯
● 準富裕層(5,000万円以上1億円未満):403.9万世帯
2005年の調査開始以降、富裕層・超富裕層は一貫して増加傾向にあり、2021年の世帯数から11.3%増加しています。また、「相続」をきっかけに、資産を受け継いだ相続人が富裕層や超富裕層となるケースも増えているのが現状です。
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参照:株式会社野村総合研究所|野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計(外部リンク)
なぜ富裕層は相続税対策をしなければならないのか
日本では、相続税の負担の大きさから「三代で財産が消える」と言われています。相続税の最高税率は55%と非常に高く、何も対策をせずに相続を迎えてしまうと、祖父母から子、子から孫へと資産が受け継がれるたびに、半分近い資産を税金として納めることになります。
相続税対策は、相続が起きてからでは、できる対策が限られてしまいます。大切な資産を守るためにも、生前から相続に精通した専門家と一緒に状況を把握し、対策を立てておくことが重要です。
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高額資産を持つ人ほど相続税負担が大きい
相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた後の金額に対して課税されます。税率は累進課税制度を採用しており、下図のように課税対象となる遺産額が増えるほど税率が高くなります。つまり、遺産が多ければ多いほど、高い税率が適用され、最終的に相続税が増加する仕組みです。
なお、2013年の税制改正で相続税の最高税率は55%に引き上げられました。今後も税制改正により、最高税率が引き上げられる可能性はゼロではないため、富裕層ほど相続税の負担が大きくなります。そのため、計画的な相続税対策がますます重要となるでしょう。
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財団を活用した節税スキームとは
相続税対策として財団法人を活用する方法は、税務上のメリットを享受する有効な手段の一つです。実際に活用する前に、どのような仕組みで節税効果が得られるのか、基本的な仕組みを理解しておきましょう。
公益財団法人・一般財団法人・一般社団法人の違い
公益財団法人、一般財団法人、一般社団法人は、それぞれ運営の基盤と目的が異なります。主な違いは、活動を行う「基盤」が人か財産かという点にあります。
公益財団法人は、公益の推進を図ることを目的として、法人の設立理念に則って活動を行う民間の法人です。一般財団法人を設立した後に、内閣総理大臣または都道府県知事から公益認定を受ける必要があります。これに対して、一般財団法人は、一定額以上の拠出金があれば、目的や制約に関係なく設立が可能です。一方、一般社団法人は、人を基盤としており、2人以上の人が集まれば、法務局に登記するだけで簡単に設立できます。
財団法人を活用した相続税対策の仕組み
公益財団法人に資産を移すことで、相続税をゼロにすることが可能です。具体的には、不動産や株などの資産を事前に公益財団法人に寄付することで、その資産は個人の所有物ではなくなります。その結果、相続が発生しても相続税が課せられません。実際、ビル・ゲイツ氏やマーク・ザッカーバーグ氏など多くの富裕層も、多額の資産を慈善団体に寄附しています。
ただし、過剰な節税は脱税となります。相続税対策に公益財団法人を活用するかどうかは、慎重に判断することが大切です。
公益財団法人の節税メリットとデメリット
公益財団設立には税制上のメリットがある一方で、設立や運営における制約や監視義務などのデメリットも存在します。そのため、相続税対策として公益財団法人を利用するかどうかは、税制面でのメリットだけでなく、法人の活動目的や事業展開も考慮しながら総合的に判断することが重要です。それぞれを詳しく見ていきましょう。
公益財団法人を設立するメリット
公益財団法人を設立するメリットは、以下の2つです。
✓ 相続税・所得税・法人税の節税効果がある
✓ 社会的信用度が上がる
✓ 社会貢献につなげられる
まず、財産を公益財団法人に寄附すると、寄附金額に応じて、所得税の寄附金控除または税額控除が適用されます。また、一定の条件を満たせば、相続税の負担を回避することも可能です。法人税についても、公益財団法人は収益事業以外の部分が非課税となるため、税負担を抑えられるでしょう。
加えて、公益財団法人は社会的に意義のある活動を行うため、企業や個人からの寄附を受けやすくなり、資金調達がしやすくなります。その結果、新しい事業を展開したり、社会貢献活動を継続したりしやすくなるでしょう。
公益財団法人を設立するデメリット
公益財団法人を設立するデメリットは、以下の3つです。
✓ 設立・運営のハードルが高い
✓ 事業内容に制限がある
✓ 認定取消のリスクがある
公益財団法人は行政機関の監督下で運営されるため、法律や規則に従って適切に活動を進める必要があります。設立には厳格な要件があり、運営開始後も毎年の報告義務や定期的な立ち入り検査が課されます。また、財務管理も「公益目的事業」「収益事業」「法人会計」に分ける「3区分会計」が必要となるため、会計処理が複雑になり、人手やコストがかかる点もデメリットです。
さらに、公益法人として認定され続けるためには、活動が公益性を持つことが求められます。もし基準を満たさなくなると、行政機関から認定を取り消される可能性があります。認定を取り消されると、保有していた財産は他の公益法人や公共機関に渡さなければならないため、常に適正な運営を維持することが非常に重要です。
富裕層が検討したい生前にできる相続税対策7選
では、実際に富裕層はどのような節税対策をしていけばいいのでしょうか。生前のうちからできる対策方法をご紹介します。
1. 不動産を活用・購入する
2. 生命保険等の非課税枠を活用する
3. 生前贈与する
4. 孫などに「一代飛ばし」で資産を相続させる
5. 資産管理会社を活用する
6. 海外移住する
7. 公益財団法人に寄附する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
①不動産を活用・購入する
総資産額が多い場合は、不動産の活用・購入を検討してみることをおすすめします。なぜなら、不動産の相続税評価額は一般的に時価よりも低くなるため、資産を現金から不動産に変えるだけで相続税の負担を軽減できるからです。例えば、10億円の現金を不動産に変えると、それだけで相続税評価額を7〜8億円に抑えられるという計算になります。
さらに、「小規模宅地等の特例」を活用すれば、一定の条件を満たすことで土地の評価額を最大8割減額できます。また、賃貸用不動産であれば、借地権割合や借家権割合を考慮することで、相続税評価額をさらに引き下げることが可能です。制度を活用することで、より大きな節税効果が期待できるため、不動産の活用・購入を検討してみましょう。
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②生命保険等の非課税枠を活用する
生命保険の非課税枠とは、亡くなった方が契約者(保険料を払っていた人)かつ被保険者で、受取人が法定相続人の場合に、生命保険金の一部が相続税の課税対象から除外される制度です。非課税額は「500万円 × 法定相続人の人数」で計算され、この金額を超えた分にのみ相続税がかかります。
例えば、資産2億円で法定相続人が4人いた場合、非課税枠は500万円 × 4人 = 2,000万円です。2,000万円の生命保険に加入すればその時点で資産の10%は非課税となります。現金は全額が相続財産としてカウントされてしまうため、使う当てのない預金があれば生命保険に変えておいたほうが理論上は相続税が少なくなります。ただし、非課税枠の上限や、相続人の人数が少ない場合は大きな節税効果は期待しにくい点に注意しましょう。
【関連記事】生命保険と生前贈与~相続税の節税対策~子にかかる相続税の負担とは?税率や未成年が相続する流れ、節税方法を解説
③生前贈与する
生前に子や孫に贈与することで、相続税を減らせます。贈与には本来贈与税がかかりますが、年110万円までまたは累計2,500万円までは贈与税がかかりません。他にも、以下の特例を活用することで、贈与税を避けつつ、資産を移転することが可能です。
✓ 住宅取得資金贈与の特例
✓ 教育資金一括贈与の特例
✓ 結婚・子育て資金の一括贈与の特例 など
ただし、現在「相続税と贈与税の一体化」の検討が少しずつ進んでいます。今後、さらに制度が変わっていく可能性もあるため、最新の情報を元に慎重に計画することが大切です。
今後の相続税・贈与税の見通しについて詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】暦年贈与とは|相続税対策で押さえるべき3つの注意点と廃止リスク
④ 孫などに「一代飛ばし」で資産を相続させる
「一代飛ばし」とは、養子縁組を活用して、親から子を経由せず、直接孫に資産を相続させる方法です。通常、親が亡くなった後に子が相続する「一次相続」と、その後子が亡くなった際に孫が相続する「二次相続」と縦の列で資産承継するのが一般的です。祖父から孫へ資産を一代飛ばして相続させることで、子が相続する場合よりも税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、相続人が亡くなった方の1親等の血族及び配偶者以外である場合は、相続税が通常の金額に対して2割加算されてしまいます(相続税額の2割加算)。つまり、孫を養子にした場合、1親等として扱われるため、2割加算の対象になります。2割加算を差し引いたとしても全体の納税額を下げられるため、資産規模が大きい富裕層の間では行われることが多い相続税対策です。
養子縁組以外で一代飛ばし方法を詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】相続対策として孫に財産を渡す7つの方法|生前贈与の注意点
⑤資産管理会社を活用する
資産管理会社を活用すると、以下の2つの節税効果があります。
✓ 含み益に対する節税
✓ 家族雇用による節税
資産管理会社を設立すると、不動産や有価証券など個人で保有する財産を、会社に移すことが可能です。そのため、相続時には個人ではなく、資産管理会社の株式として相続する形となります。なお、資産管理会社の株式の評価額は、純資産価格から含み益にかかる法人税相当額を差し引いた額で計算されます。そのため、含み益が大きいほど相続税の節税効果が高くなるのです。会社の上場を目指している場合、株価が低いうちに株式を個人から資産管理会社に移すと、将来的に大きな節税効果が期待できる可能性があるでしょう。
また、資産管理会社に相続人を雇用し給与を支払うことで、オーナーの蓄財が抑えられ、相続税額を減らすことが可能です。受け取った給与は、相続税の納税資金として活用もできるため、相続時の負担を軽減できます。
合同会社設立による節税メリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】相続税対策で合同会社を設立するときに気をつけるべきポイント
⑥海外移住する
日本の相続税は世界的に見ても高い水準ですが、オーストラリア、中国、ニュージーランド、スウェーデンなどの国には、相続税そのものがありません。資産規模の大きな富裕層であれば、移住のコストを差し引いたとしても相続税ゼロのメリットが大きいため、海外移住は一つの選択肢になります。
ただし、移住してすぐに日本の相続税が免除されるわけではありません。移住先の税率が適用されるためには、被相続人と相続人の両方が海外に移住し、10年以上経過している必要があります。移住後、10年以内に相続が発生すると、日本の相続税が課税されるため、注意しましょう。なお、このルールはもともと「5年」でしたが、2017年の税制改正で 10年に延長されました。今後さらに期間が延びる可能性もあるため、最新の税制を確認しながら慎重に判断することが重要です。
国際相続における注意点を詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】アメリカの相続税はいくらからかかる?国際相続の仕組みや日本との違いを解説
⑦公益財団法人に寄附する
公益財団法人を活用した相続税対策は、主に上場企業のオーナーなど、超富裕層に活用されています。上場企業のオーナーは、通常、自社株の帳簿価格が低く、含み益が大きい場合が多いため、相続時に高額な相続税や所得税が課せられる可能性があります。この場合、公益財団法人に自社株を寄附することで、株式に対する課税を回避できます。
なお、公益法人は性質上、設立者や設立者の後継者が思い通りに動かすことはできません。そのため、寄附した資産は厳密には設立者の一族のものではなくなってしまいます。ただ、公益財団法人の運営をある程度コントロールすることができると考えれば、資産を非課税で逃がせる場所になり得るでしょう。しかし、公益財団法人はあくまでも公益目的で運営されるべきものであり、単なる節税目的での活用は認められていません。慎重に計画を立て、適切に運営することが求められます。
特例が適用される寄附のケースについて詳しく知りたい方は、以下の記事をぜひご覧ください。
【関連記事】相続税が非課税に!?相続財産を公益法人などに寄附をした場合の特例とは?
財団法人節税を活用する際の注意点
公益財団法人を活用した節税は、社会貢献をしながら税負担を軽減できる方法ですが、設立や運営には多くの手間とコストがかかります。
まず、公益法人の設立には、単なる「ペーパーカンパニー」では通用せず、新規事業と同じくらいの労力が必要です。創業社長としてもそのハードルは低くはなく、相応の計画と努力が求められます。さらに、設立には約2〜3年を要し、事業の方向性を誤ると税務当局に否認されるリスクも存在します。また、公益法人の運営は一人で完結できるものではなく、理事や監事を配置しなければなりません。公益法人は設立後も多くのリソースを投入しなければならない点も覚えておきましょう。
それでも、税制上の優遇措置を享受できるため、多くの富裕層が公益財団法人を設立しており、相続税や法人税の負担軽減を目指しています。公益財団法人を設立する際は、運営にかかる時間やコストと、得られる節税効果を十分に比較検討することが大切です。
まとめ
日本の相続税は最高税率55%と高いため、何も対策を取らなければ、相続のたびに約半分の資産を税金として支払わなければなりません。資産を守っていくためには、相続税対策は必ず必要です。しかし、富裕層の節税対策はすぐに結果が出るわけではなく、長期的な計画が必要です。特に、贈与や不動産を活用した対策などは節税方法の鉄板ですが、時間をかけて行う必要があります。そのため、早めに相続税専門の税理士に相談することが重要です。早い段階で相談することで選択肢が広がり、税理士と共に長期的な計画を立てることで、なるべく多くの財産を手元に残すための対策が進められるでしょう。
なお、相続税のクロスティは、相続専門の税理士法人として豊富な実績と経験を誇ります。相続税対策について詳しく知りたい、または自分に適した節税方法を知りたいとお考えの方は、お気軽に相続税のクロスティまでご相談ください。
最後に
相続税の申告手続きは、相続税のクロスティにお任せください
私たち、相続税のクロスティは、税理士法人の相続税を専門とする事業部から発足し、母体である名古屋総合税理士法人は創業以来50年以上、愛知県名古屋市にて東海エリアを中心に相続税専門の税理士として、皆さまの相続手続きをお手伝いしてまいりました。
相続税は税理士にとっても特殊な分野の税目です。相続税の高度な知識だけでなく、民法や都市計画法など幅広い知識が必要な他、年月をかけ培った経験やノウハウが大変重要になる分野です。税額を安くする制度は多数ありますが、その選び方ひとつで大きくお客様の納税負担は変わります。
故人から受け継いだ大切な遺産を、少しでもお守りすべく、私たち相続税のクロスティは各士業(司法書士、弁護士、不動産鑑定士、行政書士など)や国税OBなど各専門家と提携し、お客様におすすめの制度と対策をご提案させていただいております。私たち相続税のクロスティは「相続でお困りの方を一人でも減らしたい」という想いから、初回のご相談は無料で対応いたしております。「相続の仕組みを知りたい」「相続税申告が必要かわからない」「まずは見積りだけほしい」など、まずはどんなことでもお気軽にご相談ください。ぜひ、お会いできる日を楽しみにしております。
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