インフレ時代に資産はどう守る?現金の目減りに備える相続税対策
近年、エネルギー価格の高騰や国際情勢の緊迫化を背景に、「第三次オイルショック」ともいわれる状況への懸念が高まっています。物価が上昇する局面では、現金の実質的な価値は徐々に目減りし、これまでの資産の持ち方では対応しきれない可能性があります。
さらに、インフレの影響は現金だけでなく、保有する資産全体に及びます。資産価値の変動は相続時の評価額にも影響し、相続税の負担を左右する要因となるでしょう。
本記事では、インフレ時代における資産防衛の考え方から相続税への影響をわかりやすく解説します。将来の負担を見据えた対策方法もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
・第三次オイルショック懸念で「資産防衛」が求められる背景
・現金・預金中心の資産構成が抱えるリスク
・インフレ時代の資産防衛は「資産の組み替え」が重要
・資産の組み替えを検討すべきタイミング
・第三次オイルショック懸念・インフレで検討したい相続税対策
・まとめ
第三次オイルショック懸念で「資産防衛」が求められる背景
ホルムズ海峡をめぐる緊張の高まりにより、原油供給の不安定化が改めて意識されています。
2026年2月28日には、アメリカとイスラエルによる攻撃を受け、イランが報復措置に踏み切りました。この影響によりホルムズ海峡は事実上の封鎖状態となり、原油供給をめぐる緊張は一気に高まりました。
ホルムズ海峡は、世界の原油や液化天然ガス(LNG)の約2割が通過するエネルギー輸送の要衝です。供給制約を背景に、国際原油価格は一時1バレル100ドルを超える水準まで上昇しました。日本国内でもガソリン価格が全国平均で190円台に達し、政府が再び補助措置を講じるなど、すでに影響は生活レベルにまで及んでいます。
一方で、日本は過去のオイルショックを経て、省エネルギー化やエネルギー源の多様化を進めてきました。そのため、1970年代のオイルショック時と比べ一定の耐性は備えています。ただし、原油価格の上昇が物流費や製造コストを押し上げ、物価全体へ波及する構造自体は変わっていません。むしろ、すでにインフレ傾向にある現代では、影響が資産全体に波及しやすい環境にあると言えるでしょう。
出典:経済産業省|中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置(外部リンク)
原油高がなぜ物価上昇につながるのか
原油は、ガソリンや灯油といった燃料だけでなく、物流や製造のあらゆる工程に関わる基礎的な資源です。そのため、原油価格が上昇すると、エネルギーコストが増加し、段階的に経済全体へと広がっていきます。
例えば、輸送コストが上昇すれば、商品を運ぶための費用が増えます。製造業においても、電力や原材料費の上昇が製品価格に反映されます。企業がコスト増加を吸収しきれなければ、最終的に販売価格へと転嫁され、消費者が支払う物価上昇につながります。
さらに、エネルギー価格の上昇は家計にも直接的な影響を与えます。ガソリン代や光熱費の増加は可処分所得を圧迫し、消費行動にも変化をもたらします。エネルギー価格の上昇を起点としたインフレは、特定の分野にとどまらず、経済全体へと波及していく点が特徴です。
物価上昇によって現金の価値が目減りする仕組み
インフレ(インフレーション)とは、モノやサービスの価格が継続的に上昇する現象です。今回のようなエネルギー価格の高騰は、原材料費や輸送費を押し上げる「コストプッシュインフレ」を引き起こし、幅広い商品の値上がりにつながります。
物価が上昇すると、同じ金額で購入できるモノやサービスの量は減少します。例えば、これまで1,000円で購入できていた商品が1,100円に値上がりすれば、現金の価値はその分だけ目減りします。
また、インフレの影響は長期になるほど大きくなります。仮に物価が毎年2%ずつ上昇した場合、現在100万円で購入できるものは、5年後には約110万円まで上昇します。一方で、現金のまま保有している100万円は、実質的には約90万円の価値に低下します。長期間現金のまま保有するほど、影響は大きくなってしまうでしょう。
現金・預金中心の資産構成が抱えるリスク
現金・預金を中心とした資産構成は、インフレ局面において以下のようなリスクが生じます。
● インフレにより現金の実質価値が低下する
● 長期保有するほど影響が蓄積する
● 資産評価の変動により相続時の税負担が変わる
現金は元本が減らないという安心感がある一方で、インフレ環境下では「価値が目減りし続ける資産」でもあります。そのため、資産の大半を現金で保有している場合、気づかないうちに資産全体の実質価値が低下してしまう可能性があります。
さらに、現金は相続時にそのままの金額で評価されるため、資産構成によっては税負担が重くなりやすい点にも注意が必要です。
インフレ時代の資産防衛は「資産の組み替え」が重要
インフレ時代においては「資産を減らさない」と「相続に備える」は切り離して考えられません。そのため、一つの資産に偏るのではなく、以下のような視点で全体のバランスを見直すことが重要です。
● 現金・不動産・有価証券を組み合わせて保有する
● 生活資金と運用資産を分けて管理する
● インフレに対応できる資産を取り入れる
それぞれを詳しく見ていきましょう。
現金・不動産・有価証券を組み合わせて保有する
資産は、現金・不動産・有価証券をバランスよく組み合わせて保有することが重要です。
インフレの影響は資産ごとに異なります。現金は物価上昇によって実質的な価値が目減りする一方で、不動産や有価証券は価格上昇の恩恵を受けやすい傾向があります。
例えば、1,000万円の現金を保有している場合、物価が10%上昇すると実質的な価値は約900万円に低下します。一方で、その資金を不動産や有価証券に振り向けていれば、インフレにともない資産価値や収益の増加が期待できます。
ただし、不動産や有価証券は価格変動や換金性のリスクもあります。それぞれの特性を踏まえ、資産配分を見直すことが重要です。単一の資産に偏るのではなく、複数の資産をバランスよく保有することで、価格変動リスクを分散できるでしょう。
生活資金と運用資産を分けて管理する
資産防衛では、「使うお金」と「増やすお金」を分けて管理することで、安心感と資産成長の両立が図れます。なぜなら、すべての資産を一緒に管理してしまうと、必要な資金までリスクにさらしてしまう可能性があるためです。
例えば、生活費の6か月〜1年分は現金や預金として確保し、残りを賃貸不動産や有価証券に振り分けることで、「すぐ使える資金」と「増える資産」を両立できます。急な支出にも対応しつつ、将来に向けた資産形成を無理なく進められるでしょう。
インフレに対応できる資産を取り入れる
インフレ時代には、物価上昇に対応できる資産を意識的に取り入れることが重要です。
インフレ対策として注目される資産は、以下の通りです。
✓ 不動産
✓ 有価証券
✓ 金
✓ 外貨建て資産 など
例えば、賃貸不動産は物価上昇に伴って家賃収入が上がる可能性があります。また、金は「有事の金」と呼ばれ、国際情勢の緊張や新型コロナウイルス感染症の拡大といった不安定な局面でも、価格が大きく下落しにくく、むしろ上昇基調を維持する傾向があります。
ただし、インフレに強い資産であっても、闇雲に選べばよいわけではありません。自身の状況に応じて資産配分を設計し、定期的に見直していくことが重要です。
資産の組み替えを検討すべきタイミング
資産の組み替えは、「思い立ったとき」ではなく、以下のような適切なタイミングで検討することが重要です。
● インフレが継続している時
● 資産構成に偏りがある時
● 相続対策を検討する段階 など
共通するのは、現在の資産構成のままでは将来的なリスクや負担に対応しきれない点です。
資産が現金に偏っている場合、インフレによって実質的な価値が目減りするリスクがあります。また、相続税は「相続時点の評価額」で決まるため、資産価格の変動がそのまま税額に反映されます。不動産や有価証券の価格が上昇すれば、相続時の評価額が高くなり、その分だけ相続税の負担が増える可能性があります。
将来のリスクや負担を見据え、早い段階で資産構成を見直すことが、税負担の軽減と資産の有効活用につながるでしょう。
第三次オイルショック懸念・インフレで検討したい相続税対策
第三次オイルショック・インフレ懸念時の相続対策は、以下のような複合的な視点で進めることが重要です。
● 家族間で資産状況を共有しておく
● 生前贈与を活用して資産を計画的に移転する
● 資産構成を踏まえて相続対策を設計する
● 納税資金を見据えた資産配分を行う
● 専門家へ早期に相談する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
家族間で資産状況を共有しておく
まず重要なのは、家族間で資産状況を事前に共有しておくことです。
相続では、資産の全体像を把握していなければ、適切な対策やスムーズな遺産分割が行えません。その結果、相続発生後の調査に時間を要し、申告期限に間に合わないリスクも生じます。そのため、資産一覧を作成し、定期的に家族と共有しておくことが重要です。資産の見える化を進めることで、相続発生後の手続きや対策を滞りなく進められます。
相続準備のポイントを確認したい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
【関連記事】年末の家族会議で決める相続準備|遺言・名義整理・財産目録の作り方
生前贈与を活用して資産を計画的に移転する
生前贈与は、将来の税負担を見据えて資産を計画的に移転する有効な手段です。
相続税は相続時の時価で評価されるのに対し、生前贈与は移転時の評価額で課税されます。そのため、将来値上がりが見込まれる資産は、価格が上昇する前の移転により課税対象となる評価額を抑えられます。また、年間110万円の非課税枠を活用すれば、無理なく長期的に資産移転を進めることも可能です。
一方で、生前贈与は適用できる制度や課税関係が複雑であり、進め方によっては想定外の税負担が生じる可能性もあります。特に近年は税制改正の影響もあり、制度の理解がこれまで以上に重要になっています。
そのため、生前贈与を検討し始めた段階で、税理士などの専門家に相談し、自身の状況に応じた進め方を整理しておくことが重要です。
生前贈与における具体的な戦略方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】【年末対策】相続贈与一体化・7年ルールを見据えた生前贈与のポイント
資産構成を踏まえて相続対策を設計する
相続対策は「今ある資産で何をするか」だけでなく、「どのような資産構成にするか」から考えることが重要です。
相続税は資産の種類ごとに評価方法が異なるため、資産構成によって税負担や分割のしやすさが大きく変わります。例えば、現金や預金は額面で評価されるため、資産の大半が現金の場合は税負担が重くなりやすい傾向があります。一方で、不動産などを活用すれば、評価額の圧縮や収益確保といった効果が期待できます。
しかし、不動産の割合が高すぎると、相続人間での分割が難しくなり、売却や共有によるトラブルにつながる可能性もあります。そのため、換金性の高い金融資産も一定程度確保しておく必要があります。
資産の種類ごとの特性を踏まえ、「税負担・分割のしやすさ・流動性」のバランスを意識することが重要です。
納税資金を見据えた資産配分を行う
相続対策では、納税資金の確保を前提に資産配分を考えることが重要です。
相続税は原則として現金で一括納付する必要があります。例えば、親が長年住んできた実家を相続したものの、手元に十分な預金がなければ、納税のために売却を余儀なくされるかもしれません。しかし、納税期限に間に合わせるために急いで売却すると、価格交渉で不利になり、本来の価値よりも低い価格で手放してしまう可能性もあります。
さらに、不動産を相続すると相続税だけでなく、固定資産税などの継続的な負担も発生します。将来の税額も見据えながら、納税資金を無理なく確保できる状態を維持しておきましょう。
専門家へ早期に相談する
相続税対策は、専門家へ早期に相談することで、精度と実効性が高まります。
相続税は制度改正や評価ルールの影響を受けやすく、専門的な判断が求められる分野です。自己判断だけで進めると、本来使える制度を見逃し、税負担が増える可能性があります。
例えば、不動産評価や相続税の申告では、評価方法や特例の選択によって納税額が大きく変わります。そのため、相続対策を検討し始めた段階で、税理士などの専門家に相談し、現状の資産状況に応じた方針を整理しておくことが重要です。
相談先ごとの役割や選び方について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。
【関連記事】相続税は税理士に相談すべき?司法書士・弁護士などの特徴を解説
相続税のクロスティは、司法書士・弁護士・不動産鑑定士・行政書士などの各専門家や国税OBと連携し、お客様の状況に応じた最適な制度と対策を提案します。生前の相続対策についてご検討の際は、お気軽にご相談ください。
まとめ
第三次オイルショックやインフレ懸念が現実味を帯びるなか、相続税対策はこれまで以上に「タイミング」と「設計力」が問われる時代に入っています。
物価上昇により資産価値が変動する環境では、従来の対策だけでは十分とはいえません。そのため、資産の把握・移転・納税資金の確保を一体として設計し、早い段階から準備を進めることが重要です。早期の備えにより将来の負担軽減につながるだけでなく、資産を守りながら次世代へ円滑に承継する基盤を整えられるでしょう。
最後に
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(所属税理士会:名古屋税理士会 法人番号2634)

名古屋総合税理士法人 代表税理士 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 賃貸不動産経営管理士
監修者プロフィール:
相続税に関するセミナー講師を年間100回程度務めるほか、大手信託銀行・不動産管理会社等の税務顧問や、日経新聞社講師、南山大学非常勤講師を務めている。
現在代表を務める名古屋総合税理士法人は、資産家の生前節税対策・法人化節税を得意とし、累計 1,000 件を超える名古屋最大級の相続税申告実績を誇り、相続税相談についての面談数は年間 500 件を超えるほか、数多くの不動産オーナーの顧問税理士を務めている。
【主な活動実績】
・著書「知識ゼロからの相続の教科書」は相続税/贈与税カテゴリーにて、出版週で第1位を獲得
・プロフェッショナルな会計ファームに授与される「Best Professional Firm」を3年連続で受賞
・書籍「相続に強い頼れる士業・専門家50選」に選出
・南山大学の非常勤講師
本記事のよくある質問
Q. インフレ(物価上昇)時代に、現金のまま資産を保有するリスクとは?
A. インフレが続くと、同じ金額で購入できるモノが減り、現金の実質的な価値が目減りするリスクがあります。例えば物価が毎年2%上昇すると、100万円の価値は5年後に約90万円相当まで低下します。長期保有するほど影響が蓄積するため、現金のみに偏った資産構成には注意が必要です。
Q. 物価高に備えた資産防衛として、どのような資産構成がおすすめですか?
A. 現金・不動産・有価証券をバランスよく組み合わせることが重要です。生活費の半年〜1年分は現金や預金として確保し、残りをインフレに強い賃貸不動産や有価証券、金などに振り分けることで、急な支出に備えつつ資産の実質的な目減りを防ぐ効果が期待できます。
Q. 資産の組み替えや見直しは、どのようなタイミングで検討すべきですか?
A. インフレが継続している時や、現預金など特定の資産に偏りがある時、または相続対策を検討し始める段階が最適なタイミングです。不動産などの資産評価額が変動すると相続時の税負担にも影響するため、将来のリスクを見据えて早い段階で資産構成を見直すことが重要です。
Q. インフレ懸念の中で検討すべき、有効な相続税対策の手順とは?
A. まずは家族間で現在の資産状況を共有し、資産一覧を作成します。その上で、将来の値上がりに備えて生前贈与を活用し、計画的に資産を移転させます。同時に「税負担・分割のしやすさ・流動性」を考慮しながら、全体の資産構成を見直していくのが効果的な手順です。
Q. 相続税対策として生前贈与を活用する際の注意点とは?
A. 生前贈与は、将来値上がりが見込まれる資産を価格上昇前に移転することで、課税対象となる評価額を抑えられる有効な手段です。しかし、適用できる制度や課税関係が複雑で、税制改正の影響も受けやすいため、自己判断せずに早い段階で税理士などの専門家へ相談することが重要です。
Q. 相続における納税資金の確保に関して、どのような注意点がありますか?
A. 相続税は原則として現金で一括納付しなければなりません。相続財産における不動産の割合が高く、手元に十分な預金がない場合、納税のために急いで不動産を安値で売却せざるを得ないリスクが生じます。そのため、あらかじめ納税資金を見据えて換金性の高い金融資産を確保しておく必要があります。




