祭祀財産とは? 承継者の決め方やトラブル防止の注意点などを解説
被相続人亡き後、残された人にとっては「どこまでが相続にあたるのか?」「これらは相続税がかかるのだろうか…」と不安や心配がつきないものです。その中において、「お墓や仏壇などは果たして相続財産にあたるのだろうか?」と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。実際のところ、お墓や仏壇などは、相続財産とはみなされません。これらは民法上の「祭祀財産」にあたり、法において定められた独自のルールがあります。そのルールを理解し、取り扱いを明確にしておくことが、トラブルを防ぐ鍵となります。今回はこの「祭祀財産」について、相続を得意とする名古屋の税理士が詳しく解説していきます。
目次
・引き継がれてきた大切な財産、祭祀財産とは?
・祭祀財産を承継する人とは誰を指す?
・祭祀主宰者はどのように決まるの?
・節税を考えるなら、お墓などの購入は生前に
・お墓を手放したい場合、相続放棄することはできる?
・祭祀主宰者は生前に変更することも可能
・まとめ
引き継がれてきた大切な財産、祭祀財産とは?
「祭祀財産」とは、一体どういったものを指すのでしょうか。聞き慣れない言葉で、中には初めて知ったという方もいると思います。「祭祀」とはご先祖様や神様を祀ることをいいます。つまり「祭祀財産」とは、ご先祖様や神様を祀るのに必要となる財産を指しているのです。「祭祀財産」は通常の相続とは異なり相続財産にはあたらないとされています。骨董や投資を目的としたものは除かれますが、原則として相続税が課税されることはありません。それは、「祭祀財産」が宗教やその家の慣習、信仰などとも深く関わっており、現金や土地などのように金銭に単純に換算するということが難しいという面があるからです。具体的に「祭祀財産」がどのようなものを指すかは民法において定められており、以下の三つが該当します。
系譜(けいふ)
先祖から子、孫に至る血縁関係のつながりを、絵や図表などで書き記したものを指します。冊子や巻物、掛け軸で引き継がれている家系図や家系譜、過去帳などが代表的なものです。
祭具(さいぐ)
ご先祖様や神様、仏様をあがめる際や、礼拝を行う際に使用する器具や道具を指します。例えばご先祖様に手を合わせる際に、目の前にある位牌や仏像、仏壇などはこの祭具にあたります。他にも、神棚、屋敷内にある神の社や祠、ご神体、お地蔵様といった庭内神祠(ていないしんし)、十字架などもこれにあたります。ただし仏間などは建物の一部であるとみなされるため、たとえ祭具と同様に扱っている神聖な間だと捉えていても、祭具のみが置かれている間だとしても、民法上祭具にはあたりません。
墳墓(ふんぼ)
墓碑・墓石・埋棺・墓地など、亡くなった方のご遺体や遺骨を葬るために用いるものを指します。また、その土地の所有権や使用権も祭祀財産に含まれる場合があります。なお、広島高判における平成12年8月25日の判決文に墓地に対する考え方が示されており、そこには、「墳墓と社会通念上一体のものと捉えられる程度に切っても切れない関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地」とするとあります。つまり、常識的に考えられる広さの墓地を指すということです。したがって、常識からかけ離れた広さの墓地は、それにあたらないと捉えることができます。
祭祀財産を承継する人とは誰を指す?
「祭祀財産」を承継する人は、民法上、「祖先の祭祀を主宰すべき者」と定められており、その主宰すべき人を「祭祀主宰者」といいます。具体的には、お墓や遺骨、位牌、仏壇などの管理、葬儀や法要などを取りまとめ主宰する人を指します。なお、「祭祀主宰者」は法定相続人が相続しなければならないという決まりはなく、親族である必要もありません。もちろん氏が被相続人と違っていても問題ないとされています。なお、「祭祀」は地域やその家における慣習などが色濃く反映されるため、円滑に執り行う上でも「祭祀主宰者」は複数人ではなく一人が望ましいとされています。また、「祭祀財産」を承継する上でも、原則は一人とされています。それは、相続財産では相続人が複数いる場合、財産を分割しますが、「祭祀財産」は複数人で分け合うと後のトラブルに発展しやすく、非常にデリケートな面を持ち合わせているためです。したがって、相続財産とは民法上切り離して考えられています。
祭祀主宰者はどのように決まるの?
「祭祀主宰者」を被相続人(亡くなった方)が指定していればいいのですが、そうでないケースも中にはあるでしょう。残された人たちの争いやトラブルを防ぐためにも、民法において「祭祀主宰者」を決める順番が定められています。その順番は以下の通りです。
1、被相続人が指定した者
まず、被相続人が「祭祀主宰者」を指定している場合には、その人が承継します。指定は必ずしも遺言によるものである必要はありません。被相続人が生前に書面や口頭で祭祀主宰者を指定してもよく、あくまで被相続人の意思が尊重されるものとされています。しかし、口頭だけだと残るものが何もなく、後々トラブルに発展しやすいため、遺言で指定することが望ましいでしょう。
2、慣習に従う
被相続人が特定の「祭祀主宰者」を指定していない場合、被相続人の地域や地方における慣習に沿って決められます。しかし、慣習には明確な決まりや基準がないため、それに従って決めるというのは難しい側面もあります。そのため、多くは親族間の話し合いで決まります。
3、家庭裁判所による決定
被相続人による指定や慣習もなく、親族同士の話し合いもまとまらなかった場合、最後の手段として家庭裁判所に決めてもらう方法があります。家庭裁判所が「祭祀主宰者」を決めるにあたっては、承継者と相続人との身分関係や事実上の生活関係、お墓などの距離、承継者の祭祀主宰の意思や能力、親族の意見などを総合的に考慮し判断されます。しかし、家庭裁判所はあくまで最終手段として捉え、可能な限り被相続人が遺言などにより指定しておくことが、トラブル回避における賢明な選択といえます。
節税を考えるなら、お墓などの購入は生前に
「祭祀財産」は相続財産とは切り離して考えられているため、通常の相続でかかる相続税が課税されないということは、先に述べた通りです。そのため、たとえばお墓など、必要となるものがあらかじめ分かっている場合、相続税の課税対象となる現金を生前に使用し「祭祀財産」に変えておくことで非課税となります。したがって、節税を考えた場合では、生前に購入しておくことが一つ大きなポイントとなります。例えばローンを組んでお墓などを購入したとして、ローンの返済途中で万が一亡くなった場合、「祭祀財産」は非課税財産として扱われるため、債務控除の対象から除外されてしまいます。お墓などを購入する際は、生きている間に払い切ることを前提に現金で購入することが必要です。
非課税にならないケースも
なお、商品、骨董品、趣味や鑑賞用として購入した品物は非課税になりません。また、あまりに高額なものを購入すると、税務署から課税逃れを指摘されるケースもあります。「祭祀」を行うために使用するものであるという、本来の目的を明確にした上で、必要がある場合に購入するということが大切です。なお、購入を検討しているものが課税逃れと判断されないか心配な場合は、専門家に相談することも一つです。
お墓を手放したい場合、相続放棄することはできる?
お墓に対する考え方やニーズは時代の流れとともに変化しており、お墓を持ちたくない、できることなら持たない選択をしたいと思う人も増えています。そういった流れの中で、いざお墓を相続するとなった際、そのお墓を持ちたくないと考えた場合に、相続を放棄することは可能なのでしょうか。結論から述べると、それはできません。相続財産として取り扱われないお墓は、もちろん相続を放棄することもできないということになります。
墓じまいを検討する場合は、親族間の同意を得ることが重要
「祭祀主宰者」となることを指定された場合、お墓など「祭祀財産」の相続を放棄することはできませんが、相続後は「祭祀主宰者」の裁量で「祭祀財産」を管理することが認められ、自身の所有物として処分することが可能となります。つまりお墓を相続放棄することはできなくても、墓じまいをすることはできるのです。そのため、お墓をどうしても手放したいと考えた場合は、墓じまいを検討することになります。しかし、親族間の同意なく墓じまいを行うとトラブルに発展する可能性が大いにあるため、事前に十分話し合い、親族同士の同意を得た上で決めることが重要です。
祭祀主宰者は生前に変更することも可能
「祭祀主宰者」を受け継いだ場合、基本的には亡くなるまで「祭祀主宰者」であり続けます。しかし、病気で「祭祀財産」の管理ができないなど、事情があれば生前に「祭祀主宰者」を変更することができます。方法としては、当事者間の合意、もしくは家庭裁判所への申し立てになります。家庭裁判所への申し立ては、祭祀を承継する本人が行っても、親族が行っても、どちらでも問題ありません。ただし、変更によって生前に「祭祀財産」を引き継ぐことになった場合、その財産は贈与税の課税対象となります。年間110万円を超えると課税されるため、注意が必要です。また、家庭裁判所に変更の申し立てを行っても、必ずしもそれが受理されるとは限らない点も頭に入れておきましょう。例えば「祭祀主宰者」が全くお墓の手入れをしないなど、憂慮すべき具体的な問題がないと、変更が認められない可能性があります。
まとめ
いかがでしたか?「祭祀財産」は通常の相続とは異なり、分けて考える必要があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。「祭祀財産」とひとくくりに言っても、その一つひとつは歩みや歴史が刻まれており、思いも深くこもったものです。その思いが大きければ大きいほど、取り扱いに慎重さが必要となってきます。大切に守られてきた「祭祀財産」によって争いやトラブルが発生してしまうことほど悲しいことはありません。安心して相続を迎えるためにも、正しくルールを理解しその時に備えることが重要です。そうは言っても、複雑な法の決まりを全て把握することは困難ですし、「祭祀財産」の相続は一歩踏み違えると繊細な問題を抱えやすい面もあります。トラブルを未然に防ぐためにも、相続のエキスパートに相談することは一番の近道といえます。大切な「祭祀財産」の対応を検討する際は、相続に強い名古屋の税理士に、まずは気軽に相談してみてください。
最後に
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