相続税節税に不動産はもう遅い?評価厳格化に勝つ新時代の相続戦略
令和8年度の税制改正により、不動産の評価方法は市場の実勢価格に合わせて厳格化される見込みです。これまで活用されてきた購入価格と評価額の差を利用した対策は、節税効果が薄れるとともに、否認リスクを伴う手法へと変わりつつあります。しかし、不動産そのものが相続対策として使えなくなるわけではありません。新ルールの導入によって短期的な駆け込み対策が通用しなくなりますが、長期運用を前提とした実態のある不動産活用は今後も有効です。
本記事では、賃貸用不動産の評価厳格化の背景と、今から間に合う相続戦略のポイントを解説します。失敗しない不動産節税のポイントもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
※本記事の内容・数値は、2026年5月時点の公表資料および制度に基づいています。
目次
・従来の不動産節税の仕組み
・令和8年度税制改正|評価厳格化が賃貸オーナーに与える2つの影響
・賃貸不動産で相続税を節税する3つの新対策
・令和8年度税制改正を踏まえた不動産相続のポイント
・まとめ
従来の不動産節税の仕組み
従来の不動産節税は、時価よりも低く算定される相続税評価額の仕組みを活用する手法です。
例えば、1億円の現金を相続する場合、評価額は額面通りの1億円です。しかし、1億円の現金で不動産を購入すると、相続税の評価額を引き下げられます。
評価額が下がる理由は、土地と建物で異なる計算基準を用いるためです。土地は市場価格の約8割とされる「路線価」を基準に算定されます。建物は建築費の約5〜6割で評価される「固定資産税評価額」が基準です。同じ資産価値であっても、財産の形を変えるだけで評価額に大きな差が生じます。
さらに、購入した不動産を賃貸用にすると、相続税の評価額は低く算出されやすい傾向にあります。なぜなら、第三者が入居している物件は「オーナーが自由に使えない資産」とみなされ、権利の制限に伴って評価額が抑えられるためです。
加えて、一定の要件を満たす土地については、評価額を最大8割減額できる「小規模宅地等の特例」と組み合わせることで、より大きな減額が見込めるケースもあります。このように、不動産は「保有」だけでなく「賃貸」という運用と特例を組み合わせることで、相続税評価額を圧縮できる点が大きな特徴でした。
貸付地の評価方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
【関連記事】借地権割合の相続税評価額の調べ方|計算方法やトラブル例を解説
不動産の「相続税評価見直し」が進む背景
不動産の相続税評価見直しが進んでいる理由は、時価と相続税評価額の乖離を利用した過度な節税が広がり、課税の公平性が損なわれているためです。
もともと不動産は、路線価や固定資産税評価額を基準に評価されるため、時価より低く算定されやすい資産です。評価差を前提に、相続直前の不動産購入など「実態を伴わない節税」が広がったことで、従来の手法は見直しの対象となりました。
さらに近年は、制度面・判例の双方から見直しの動きが進んでいます。タワーマンションについては、階層による評価差を利用した節税を抑制するため、2022年に評価方法が改正されています。
実際に、2022年4月の最高裁判決により、通達の評価方法に従って算定していても、時価との乖離が著しい場合には見直しが認められることが明確になりました。取引の実態が過度な租税回避と判断されれば、国税当局によって時価へ再評価(否認)されるという実務上の法的根拠が確立しているのです。今後は、評価と価格の差が大きい物件ほど、否認リスクが高まると言えるでしょう。
なお、タワマン節税訴訟では国税側が勝訴しましたが、近年は別の事案において国税側が敗訴するケースも出てきています。総則6項の最新の適用動向について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
令和8年度税制改正|評価厳格化が賃貸オーナーに与える2つの影響
ここでは、賃貸オーナーに影響の大きいポイントを2つ紹介します。
なお、新たな評価ルールは、2027年(令和9年)1月1日以降に発生する相続および贈与から適用される予定です。
相続直前の駆け込み購入の封じ込み
死亡前5年以内に取得または新築した貸付用不動産は、取得価額を基に地価の変動を反映した価額の約80%相当額で評価されます。そのため、「相続直前に購入して評価を下げる」という手法は追徴課税のリスクになるだけでなく、節税効果はほとんど期待できなくなっています。また、購入時の諸経費や不動産特有の流動性リスクを踏まえると、節税だけを目的に不動産を購入する判断は慎重に検討すべきと言えるでしょう。
なお、アパートや一棟マンションについては、取得後5年超にわたって賃貸経営を継続すれば、新ルールの対象外となる救済措置が設けられています。
不動産小口化商品の時価ベース評価へのシフト
不動産小口化商品は、取得した時期に関係なく、相続や贈与の発生時点における「通常の取引価格(時価)」を基準に評価する取扱いへと見直されます。
従来は、不動産と同様に路線価などをベースとした評価だったため、購入価格に対して評価額が大きく下がるケースも珍しくありませんでした。しかし今後は、以下のような実勢価格をもとに評価されます。
✓ 事業者が提示する買い取り価格
✓ 市場の売買実例
✓ 定期報告書に記載された価格 など
その結果、実勢価格(時価)に近い水準で評価される方向へと見直される見込みです。さらに、不動産小口化商品は新規取得分だけでなく既存の保有分にも影響するため注意が必要です。
賃貸不動産で相続税を節税する3つの新対策
国税当局からの否認リスクを最小限に抑え、確実に資産を次世代へ引き継ぐ新対策は、以下の3つです。
● 生前贈与の再構築
● 法人化による資産承継スキームの構築
● 収益性を重視した資産の組み換え
それぞれを詳しく見ていきましょう。
対策①:生前贈与の再構築
これからの生前贈与は、新ルールが始まるまでの短期的な対策と、5年先を見据えた長期的な計画の二段構えで進める必要があります。
2027年1月1日の新ルール導入までは、現行の有利な評価方法を使える事実上の猶予期間です。将来的に評価額が下がりにくくなる不動産小口化商品などをすでに保有している方は、猶予期間のうちに相続時精算課税制度などを活用して次世代へ贈与、もしくは売却などによる出口戦略を進める必要があります。
一方、新しく不動産を取得・建築する場合は、10年・20年単位の長期的な計画が欠かせません。購入や新築から5年を超えて長期保有・運用する不動産であれば、これまで通りの高い節税効果を得られます。長期計画を立てることで、不動産だけでなく、不動産から生まれる家賃収入を少しずつ次世代へ移転していく時間的な余裕も生まれるでしょう。
対策②:法人化による資産承継スキームの構築
不動産の法人化は、不動産を個人から法人保有へ切り替えることで、以下のような税負担のコントロールと相続対策を同時に実現できる手法です。
✓ 法人課税への切り替えによる所得税の抑制
✓ 役員報酬による所得分散と世帯全体での税率最適化
✓ 家族への報酬支給による生前の資産移転
✓ 不動産の株式化による相続時の分割容易性の向上
✓ 退職金制度や保険を活用した計画的な資産形成
✓ 赤字の繰越控除期間の長期化による将来の税負担調整 など
個人で保有していた賃貸不動産を法人へ移すと、家賃収入は法人の利益になります。家族を役員にして報酬を支払うことで、世帯全体での所得税節税と生前の資産移転を同時に進められるでしょう。
ただし、法人化の効果は、所得水準や保有物件、将来の承継方針によって大きく変わります。事前にシミュレーションを行い、コストも含めて有利・不利を整理したうえで判断することが重要です。必要に応じて、税務や不動産に詳しい専門家の意見を取り入れると良いでしょう。
相続税のクロスティでは、不動産法人化による税負担の増減を数値で可視化し、設立手続きから申告・税務対応までサポートします。現状の資産構成をもとに、将来の税負担と承継にどう影響するのか知りたい方は、お気軽にご相談ください。
※不動産の法人化節税®は、名古屋総合税理士法人の登録商標です。
対策③:収益性を重視した資産の組み換え
これからの不動産対策では、評価額の圧縮だけを目的にするのではなく、次世代に安定した収益基盤を残す視点で設計することが重要です。
従来は、時価と相続税評価額の差が大きい物件を活用することで、評価額を引き下げる手法が一般的でした。しかし評価厳格化のもとでは、購入価格と評価額のバランスが不自然な物件ほど、税務当局から否認されるリスクが高まります。収益性を重視した物件への組み換えは、税務当局に対して「節税のためではなく、将来の安定収入を得るための投資」という客観的な理由を証明することにつながるでしょう。
また、収益性の高い物件は相続後も継続的にキャッシュを生み出します。納税資金の一部を不動産収益で補えるため、資産の持続性という点でも有効です。
令和8年度税制改正を踏まえた不動産相続のポイント
評価厳格化の時代では、以下のような「節税だけを目的とした不動産取得」は成立しにくくなります。
● 高齢になってからの多額の借り入れを伴う不動産取得
● 短期売却を前提とした取得計画
● 購入価格と評価額の差が極端に大きい物件の選定
● 低稼働や不自然な賃料設定など賃貸事業の実態不足 など
一方で、中長期的な運用を前提とした実態のある不動産活用であれば、これまで通り有効な相続対策として機能します。そのため、2027年1月1日の新ルール適用を見据え、現状の資産構成が相続税に与える影響を早期に試算することが重要です。
ただし、最適な対策は資産状況や家族構成によって大きく異なります。単一の判断で進めるのではなく、税務・不動産・法務・金融の視点を掛け合わせて整理することで、実態に沿った対策が組み立てやすくなるでしょう。
相続税のクロスティは、各分野の専門家が連携し、相続税の試算から生前対策、相続税申告まで一体でサポートします。評価厳格化による影響を把握したい方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
相続対策で差がつくのは、どの対策を選ぶかではなく、どの順番で進めるかです。
不動産の取得や法人化、生前贈与といった選択肢は、それぞれ単体で判断するものではありません。資産全体のバランスや承継の流れの中で位置づけることで、はじめて効果を発揮します。
また、同じ対策でも、着手するタイミングや進め方によって結果は大きく変わります。後から修正が効きにくい領域だからこそ、最初の設計がそのまま将来の差につながります。まずは現状の整理とシミュレーションから始め、実行可能な対策を段階的に進めていくことが大切です。
最後に
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運営:名古屋総合税理士法人
(所属税理士会:名古屋税理士会 法人番号2634)

名古屋総合税理士法人 代表税理士 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 賃貸不動産経営管理士
監修者プロフィール:
相続税に関するセミナー講師を年間100回程度務めるほか、大手信託銀行・不動産管理会社等の税務顧問や、日経新聞社講師、南山大学非常勤講師を務めている。
現在代表を務める名古屋総合税理士法人は、資産家の生前節税対策・法人化節税を得意とし、累計 1,000 件を超える名古屋最大級の相続税申告実績を誇り、相続税相談についての面談数は年間 500 件を超えるほか、数多くの不動産オーナーの顧問税理士を務めている。
【主な活動実績】
・著書「知識ゼロからの相続の教科書」は相続税/贈与税カテゴリーにて、出版週で第1位を獲得
・プロフェッショナルな会計ファームに授与される「Best Professional Firm」を3年連続で受賞
・書籍「相続に強い頼れる士業・専門家50選」に選出
・南山大学の非常勤講師
本記事のよくある質問
Q. なぜ不動産を活用した相続税の節税手法が見直されているのですか?
A. 従来の不動産評価は時価より低く算定されやすく、その差を利用した実態を伴わない過度な節税が広がったためです。これにより課税の公平性が損なわれるとして、令和8年度の税制改正により市場の実勢価格に合わせて評価方法が厳格化されることになりました。
Q. 令和8年度の税制改正で、賃貸用不動産の相続税評価はどう変わりますか?
A. 新ルール(2027年1月以降適用)では、死亡前5年以内に取得・新築した貸付用不動産は取得価額ベースの約80%で評価され、駆け込み購入の節税効果は薄れます。また、不動産小口化商品は取得時期に関わらず実勢価格(時価)ベースでの評価へ移行します。
Q. 評価厳格化のルール導入前にできる相続対策の手順はありますか?
A. 2027年1月の新ルール導入までは現行の評価方法が使える猶予期間です。すでに保有している不動産小口化商品などは、今のうちに贈与や売却を進めるのが有効です。新しく取得する場合は、5年を超える長期保有を前提とした計画的な運用が求められます。
Q. 愛知県内で不動産の法人化による相続対策を相談するにはどうすればよいですか?
A. 名古屋総合税理士法人の「相続税のクロスティ」へご相談ください。不動産を法人化することで所得税の抑制や生前の資産移転などの効果が期待できますが、有利・不利の判断が難しいため、専門家が現状の資産構成に基づくシミュレーションから申告までサポートします。
Q. 今後の不動産相続対策において、物件選びで注意すべきポイントは何ですか?
A. 評価額の引き下げだけを目的とせず、「収益性」を重視した物件を選ぶことが重要です。購入価格と評価額の差が極端な物件は税務署から否認されるリスクが高まります。将来の安定収入を得るための投資という客観的な理由を持たせ、実態のある賃貸経営を行いましょう。
Q. 失敗しない不動産節税や相続戦略を進めるためのコツは何ですか?
A. 対策を選ぶこと以上に「どの順番で進めるか」が重要です。資産全体のバランスを見極め、まずは現状の整理とシミュレーションから始めましょう。税務や不動産、法務などの視点を掛け合わせ、専門家と連携しながら段階的に実行していくことが成功の鍵となります。




